1618人が本棚に入れています
本棚に追加
息をついて茜は足を緩めた。
威風堂々とした日本屋敷の前に立つ。
近寄りがたい雰囲気を醸し出す狗御家の門前――。
ギィー……その門がゆっくり開かれる。
「……お前にも見えるか?」
軽く汗を流した狂は、重々しく呟いた。
茜も険しい顔で頷く。
常人には見えぬ光景であっただろう。
家を取り巻くけばけばしい光。
淡緑色、陽炎に似た深紅、闇色に近い紫、色を変えて移ろう。
おどろにも美しい。
この世のものならぬ妖気である。
「二人の妖気が乱れているんだ」
正常ならば溢れ出る事は無いが、身に何かがあれば、乱れてその場に弊害が起きるらしい。
カタ、と扉を開く。
真っ赤な血、真っ黒な羽。
明と暗が慄く対照をなしていた。
生々しい血痕が廊下まで続き、痛々しい黒羽があちらこちらに散らばっている。
良くない事が起きてると一目瞭然だ。
狂はきり、と歯を噛み合わせてそのまま屋敷の奥へと足を進める。
こつん。
こつん。
早まっていた足音が遅まる。
.
最初のコメントを投稿しよう!