第七抄

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息をついて茜は足を緩めた。 威風堂々とした日本屋敷の前に立つ。 近寄りがたい雰囲気を醸し出す狗御家の門前――。 ギィー……その門がゆっくり開かれる。 「……お前にも見えるか?」 軽く汗を流した狂は、重々しく呟いた。 茜も険しい顔で頷く。 常人には見えぬ光景であっただろう。 家を取り巻くけばけばしい光。 淡緑色、陽炎に似た深紅、闇色に近い紫、色を変えて移ろう。 おどろにも美しい。 この世のものならぬ妖気である。 「二人の妖気が乱れているんだ」 正常ならば溢れ出る事は無いが、身に何かがあれば、乱れてその場に弊害が起きるらしい。 カタ、と扉を開く。 真っ赤な血、真っ黒な羽。 明と暗が慄く対照をなしていた。 生々しい血痕が廊下まで続き、痛々しい黒羽があちらこちらに散らばっている。 良くない事が起きてると一目瞭然だ。 狂はきり、と歯を噛み合わせてそのまま屋敷の奥へと足を進める。 こつん。 こつん。 早まっていた足音が遅まる。 .
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