第七抄

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星が降るような深夜の空だった。 此処は東京だが、賑やかな光と音の波があっという間に背後に遠ざかる。 一歩裏通りに入れば、この辺りは驚くほど古い建物や神社、公園などの緑豊かな敷地が多い。 新宿や渋谷に比べれば、空気が澄んで不自然なものさえ感じさせた。 名高く無い神社だからこそか、神の鎮座する場とも思えぬ空虚な静寂である。 負傷したレン達が結界をくぐり抜けて此処に着いたと言う。 ――巨大な石造りの鳥居の前で二人は一旦足を止めた。 目には見えない妖気の揺らぎがそこにある。 ふいに、鳥居本体が揺れた。 ヴォン! 妖しい紫色の炎に燃え上がった。 燃え盛るにも関わらず、鳥居は焼け落ちることなく、不浄の気に汚されていく。 鳥居は現世と常世の境界を示すもの。 「ここが近道なのね……」 「そうだ。もう後戻りは出来ないぞ」 狂はためらう事も無く、奥へと足を進めた。 鳥居をくぐると途端に空気が変わる。 びょうううう。黒い妖気が風と化して吹き込んだ。 奥に進むにつれ、妖気がねとりとまとわりつく。 ざ。ざ。 それは常人の目には捉える事の出来ぬ光景である。 茜は息を呑んだ。 ゆらり、と鬼火が燃え上がった。 闇に浮かんでひとつ、ふたつ、瞬く間に炎が空間を埋め尽くした。 青白く燃える魂の群れ。 血の臭気が漂っていた。 「ここに来ると分かって、歓迎されてるな」 呆然としていた茜は狂の言葉にようやく我に返った。 こんな数の妖気と対峙するのは初めてなら、これほどの悪意と邪気を体感するのも彼女にとっては初めてである。 .
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