第七抄

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その寸前! 彼は素早く護符を人差し指と中指の間にはさむ。刀印の形をした手を口元に持っていくと 「祓え給い、清め給え」 朗々と彼の口から祓いの言霊が紡がれる。 カッ。ぴりぴりと高めた霊気が白一色の輝きとして膨張した。 爆風にも似た風をまいて、砕け散ったのは妖の方だ。 それでも闇から気配を感知できる。 地を這いずり、枝から枝へ移り飛ぶ、獣のような俊敏な動きが伝わってくる。 狂は鞘から優美な刀身をすらりと抜いた。 涼やかに鮮やかな濃青色の輝き――。 狗御家の妖刀は、目を射るほどにその身を光らせて、禍々しい血を欲するように迸っている。 また、その刀を握る彼からも「気」が空気を染めて、陽炎のように立ち昇ってそれを青い炎と錯覚させた。 「餓鬼、まずはお前からだ」 彼はゆっくりと冷たく張り詰めた眼差しを餓鬼に向ける。 氷の刃を思わせる美貌と微笑に餓鬼は驚愕と恐れに怯んだ。 刀身を光らせ、悠然と敵へ一歩、一歩。 『ッグォォオ!!』 餓鬼の双眸が燃え上がった。 雰囲気に呑まれた一匹の餓鬼が乱雑に突進してくる。 きらり。 光が闇を疾駆する。 耳を覆わんばかりの絶叫。 一匹の餓鬼が後方に吹っ飛ばされて、鮮血が散った。 絶命した餓鬼の所に近寄った他の餓鬼が怒りと驚きに咆哮する。 邪魔が入った、と狂は思いっきりしかめっ面で後方へ視線を投げた。 仄かに光の尾を引いたそれは狂の背後から現れた矢だった。 「……おい、横取りするな。お前は逃げ回ってる方が似合うぞ」 「止めてよ。私だって引かない気持ちで来てるんだから!」 陰鬱な空気に肌寒さを感じて、茜は最初だけ身震いした。でも大きく息を吸い込んで、硬い決意にキュッと弓矢を握りしめる。 大切なもの、大切な人。 この場面は、受け継いだ力を発揮する時だ。 どろ、どろ、と闇が揺れる。 また来る。 茜と狂は少し口喧嘩しながらも、互いに視線を交わし合って身構えた。 闇夜に蔓延る妖よ。 陰陽師、 「狗御家の名において」 「緋凰家の名において」 二人の声が被る。 「この世から滅します!」 .
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