第七抄

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ぱあっ。 目を射らんばかりの光がさく裂する。 妖気と霊気がぶつかり合った。 ぴりぴりと大気が震えている。 再び、波動が走る。 破魔の札に貫かれて、妖の身体が弾けた。 それでも幾つかの妖は唸りをあげて食らいつく。 「負けるものかーっ!!」 とっさに巡らせた護身結界。 刃と化した妖光は壁となった彼女の霊気に阻まれる。その隙に、茜は力一杯、集中力を高めて弓矢を引く。 ばしゅっ! 頭をめがけて、迷いなく一直線に放った! 目にも止まらぬ速さで、一匹の頭を貫通し、衰える事無く群れを貫通する赤い光輝の矢。 暗闇の中に応じる木漏れ日のような光。 その輝きの中に妖魔の身体が溶けて消滅した。 茜は手の甲で汗を拭うと、肩をゆるがせた。 致命的な傷は無いものの、いつまで保てるか。 雑魚とはいえ、あの数で攻撃が続いたら…消耗するのみ。 呼吸を整えながら、次の準備に入ろうとした。 その時。 どん、と何かが破裂するような音が響いた。 いったん引いて動きを止めていた妖魔達がにわかに色めきたったのが分かった。 とっさに視線を流し、その光景を視界にとらえて茜は小さく息を呑む。 空間から凄まじい気が噴き出していた。 『ギャアァアッ!!』 擦れ合う音、足踏みの音、歯軋りの音、下草の潰れる音、空気の切れる音。 狂が餓鬼達に囲まれながらも、素早く、軽やかに次々と斬り倒していた。 黒い着流しと白銀色の刃、二つが躍動する度に、鮮血が舞う。 軽やかな連続技に餓鬼どもは彼に指一本触れられぬまま消滅する。 残酷なはずのその光景は、何故か。 優れた舞。 それと同じ美しさを感じさせた――。 .
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