第七抄

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オォォン……雷音が遠吠えのように遠のく。 再び静寂が戻った時、鞘におさめる狂は「まだ生きてたか」と一つの気配に声をかける。 「――わ、私まで巻き込まれる所だったわよ!ぶち切れた途端、相手に容赦無いじゃないの」 叩きつけられた気の圧力が弱まったのを感じて、ほーっと息をつく茜。 殺気だった狂を感知し、彼女の判断は早かった。 光の奔流に呑まれる寸前、とっさにより強く護身結界を張っていた。 それが無ければ危うく吹っ飛ばされて、今度こそ無傷ではすまなかったに違いない。 一瞬でカタをつけ、狂はさっさと奥の方に歩き出している。 「……邪魔する雑魚に遠慮はいらない、行くぞ」 遠慮と容赦は意味が違うと茜は思ったが、虫の居所が悪そうな様子に黙っている事にした。 どろり。 空間に裂け目が出来ているのを感知して、茜は表情を引き締めた。 黒々と闇が続く中、目の前に強大な観音開きの扉だ。 狂が召喚した雷光は魑魅魍魎を退かせただけでなく、別の入り口を開いたのである――。 .
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