第七抄

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ざざ。ざざ。 冷たい風が再び動き始めた。 暗黒に蝕まれ閉ざされた心、それを映し出す暗い目を見た茜は身を震わせた。 狂が見据えて一歩踏み出したではないか。 「茜」 鬼は、位(クライ)が存在するとしたら最上位の方にある。人間に近い身形をしながら、破壊と殺戮の欲望のまま手に染めていたという妖(アヤカシ)だ。 孤独で、危うく、一歩間違えれば全てが崩壊しそうなほどに恐ろしく。 唯一無二の美しさも備えた強い鬼は、妖も人間も一瞬で魅了してしまう。 「……ふっ。今の俺が醜いか、怖いか?お前程度の力では倒す事が出来ない。命が惜しければ、ひざまずいて命を乞ってみせろ」 人ならざる金色の眼が光る。 茜の前に立ち、問いかけた声音は優しげですらあった。 また、それは自らに向けた言葉。 嘲笑の半分は己に対するものであった……。 .
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