第七抄

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唐突に、ずしんと茜に彼の体重がかかる。 支えを失った狂が前屈みに茜の方へたもれかかったのだ。 「わっ、重い!! ……狂?」 仰天した茜はよろめきながらも、崩れ落ちそうになる狂を必死に抱き止める。 おそるおそる覗き込むと、まるで幼い少年のように寝ている顔が間近にあった。そっと指で頬をつついてみたが、起きる気配は全くない。 「……すー」 張り詰めた空気から解放されて、疲れ果てたのか。 狂の瞼は閉じられていて、落ち着いた規則正しい寝息が聞こえる。 (初めて見たかも。さっきまでは怖かったのに今は凄く穏やかな寝顔だ……) 悪いものが取れたというような、綺麗な寝顔だった。 ぐったりと動かない狂の身体を抱きかかえたまま座り込み、茜はもう一度、大きく安堵の息を吐いた…。 ひゅううう。 風が吹いている。 木々の葉がさやさやと寂しく鳴っている。頭上には白く輝く現世の月が異界に入る前と変わらぬ位置にあった。 しかし、異様さに彼女はようやく気付いた。 「……ここはどこ?神社の前に戻って来るんじゃなかったの?」 辺りを見回して茜は首をひねった。気が付くと、街道からそれたどこかの山の中にいたらしい。山はひっそりと闇を抱くのみ。 「鬼姫、よくもやってくれたわね……!どうみても私達の家から遠いじゃないっ。どうやって帰れっていうのよっ」 知らない場所へ飛ばした鬼姫の悪意に腹が立つ。 どちらを向いてもなびく木々を見渡して、茜は空に向かって吠えた。 ふいに――かすかな音がした。 キィ。 「――!?」 謎の音が木立の間に響く。空気を震わせるそれは幻聴ではない。 キィ。キィ。 ギ、ギィーー……。 木々に反響し、拡散する音の方角をとらえて茜は気配を、感じる。 .
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