第八抄

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同時に狂は懐から取り出した破魔札を突き出す。 調伏の呪が朗と放たれる。 カッ! 凪が眩さに一瞬目を凝らすほどのせめぎ合い。 一閃の霊気と朱い妖気がぶつかりあい、その場を真っ白な輝きが染め抜いた。 ざりっと土を踏みしめて狂は渾身の念をこめる。 白い光輝に包まれて、さらに彼から噴き上がる霊波。 『ギシャーーーッ!!!』 清冽なる気に、朱い妖気がぶれた。 狂の目前に出現した鼬火(イタチビ)の身体が輝きにのまれて、たまらず地面に叩きつけられる。 大気をゆるがす波動に吹きさらわれ、火炎が千々に裂けて散り消えた。 地面に転がったそれは果てて、凍り付いたように固まる。息絶えたのを確認した狂は息をつく。 が、しかし。 三度、殺気が迸った。 ボウゥ!ボッ!火炎が二つ三つと数を増し、また別の鼬火(イタチビ)が複数出現する。 吐き気するほどの邪悪な念の塊。 この群れが遠野を駆け抜けたらどうなるか。 「他にもいるのか……!」 口から噴き出した炎は、鞭のようにしなやかに伸びる。幾筋もの赤い妖気が地をのたうように、狂めがけて襲い掛かった。 爆裂のエネルギー。 四方から襲い掛かった妖気が彼の立ち位置を轟音とともに抉りとった……! とっさに巡らせた防御が弱い。 「あぅ……っ……!」 狂は灼熱の痛みに漏れた呻きを噛み殺した。 歯を食いしばって下がろうとすると、がくんと身体のバランスを崩した。 はっとして足元を見る。信じ難く、抉られた地が崩れ落ち、後方は急な斜面となっていた――。 濃霧の空間が下界から滲み出して逆巻いている。 白い闇に呑まれる――。 .
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