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雪が降っていました。しんしんと。あるいはしとしとと。氷のような雨のような、どっちつかずな雪が降っていました。星は見えません。もちろん月なんて見えません。真っ暗な、果てまでも黒に支配された冷たい世界。
マッチ売りの少女――『クレア』はそんなまだらの夜空を見上げながら、小さくため息を吐きました。
鮮やかな空色の髪に、緋色の瞳。おんぼろの外套(がいとう)から覗くクレアの細く小さな手には、藁編みの籠(かご)に入った、古びたマッチの箱がたくさん。彼女はそれを道行く人々に向かって差し出しながら、寒さで震える声を押し殺して訴えかけます。
「マッチいりませんか。マッチいりませんか」
けれど街の人々は、そんな少女には目もくれません。蔑むのでも、虐げるのでもなく、無関心。人間は異端を異常に怖れる生き物ですが、しかし、『貧しい』存在にはどこまで寛大なのです。
何故なら、その瞳には少女の姿など移ってはいないから。見えないものは、存在しないもの。人間は、どこまでも賢い生き物なのでした。
クレアは過ぎ去っていく人の背中を見送りながら、長い睫毛を臥せます。
『生きる。ただ、生きるために支払われる対価。雨をしのぐため、今日のパンのため。私が払えるものは、他人(ひと)ほど多くはありませんでした』
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