地を這う鴉、空飛ぶ山猫

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 <急速接近、識別信号なし。 企業の――>  通信が途切れる。その直前にした発砲音から、味方機が戦闘開始、或いは一瞬で撃破されたことが窺える。  発信源の方向に機体を向ける。周りは無人のビルに囲まれていて、遠くを見渡すことは出来ない。それでも突然T字路に現れた羽の生えた巨人、恐らく企業の新型AC(Armored Core)がFCS(Fire Control System)の熱源ロックより早くこちらに突っ込んでくる。  <敵機確認!α2より各機へ、敵の装備はライフル一丁。兎に角速い>  闇雲にライフルを乱射しながら隣にいたα2が共通回線で敵の情報を伝える。しかしソレの言葉を認識するよりも、現物が目の前を通り過ぎる方が速かった。  <相手は単機だ!攻撃を集中させろ!>  こちらの部隊は10機編成、相手はどんなに速くても1機だ。それにあれだけの推力を持つブースターを噴かしていれば直ぐにジェネレータが枯渇する。  いける、誰もがそう信じていた。そして――  「傭兵なんぞにこの国の存亡を任せろというのか?」  「それは俺の決めることじゃない」  ドイツ国家軍総司令部、初老の軍人と若い浮浪者が向かい合っている。おかしな光景、一際可笑しい点は軍人の手はデスクに、浮浪者の指は構えられた拳銃にある所か。  「何故こうまでしてこの戦争に拘ろうとする?貴様らには何の関係も無いことだろうに」  「戦争に関わりの無い者などいない、それを教えてくれたのはあんた達だろ?」  撃鉄を引きながら迫る浮浪者、その言葉が鋭く軍人の良心を抉る。苦虫を噛み潰したような表情でデスクに置かれた書類に判子を捺すと浮浪者に差し出す。契約内容、報酬金額、書類の記入に不備が無いことを確認すると浮浪者は踵を返した。  司令室を後にすると浮浪者は薄汚れたコートを脱ぎ捨てた。その下ではACのものと思われる耐Gスーツが引き締まった肉体を包み込んでいる。  「レイヴン」、ACを駆る傭兵の蔑称。その多くが特定勢力に加担しない独立傭兵で、金のためなら平気で人を殺し街を破壊し、ソレまで信じていた現実ですら無に返す残虐で見境の無い様が、忌み嫌われるカラスにそっくりだと言うことらしい。まぁ、その手の人種が他人の評価を気にするとも思えないが。
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