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<ライフル、てぇ!>
αリーダーの号令と共に10機のAC「U1」がライフルを一斉掃射する。敵のAC、「羽付き」と呼ぶ事になったソレはACのソレとは思えない急上昇でソレをかわし、ビルの向こう側へと隠れる。そして次の瞬間別の通りに降り立ち、肩口から噴射炎を吐き出しながらライフル弾の雨を掻い潜っていく。
<くそっ!ライフルじゃ当たらない!>
α6が廃ビルの屋上から12連ミサイルを放つ、再び空中に浮き上がった羽付きはミサイルに正対すると手にしていたライフルを構えた。
ハンドガン並みの連射、正確にはアサルトライフルだったソレから吐き出された弾丸がミサイルの推進部を打ち抜く。先頭のミサイルの爆発に追随していた後ろのミサイルが巻き込まれ爆発が連鎖する。迎撃装置よりも的確な迎撃に部隊は騒然とした。
≪なるほど、カナダ軍が全滅するわけだ≫
発信者不明の通信、呆れたような哀れむような口振りからして敵側のものだろう。羽付きはこちらが呆然と立ち尽くす中、悠然とビルの合間に舞い降りた。25秒間もあの高速移動を続けたバケモノ、左右胸部の謎の装置が淡く輝く粒子を吐き出している。
舞い降りた白い天使、客観的に見ればそんなフレーズが似合う美しい姿。だが当事者からしてみれば、天使の皮を被った悪魔が迫ってくるようにしか見えなかった。
幼い頃の記憶。理不尽な搾取、歯止めの利かないテロ、それを見てみぬ振りをする政府に国民は不満を募らせていた。何時からこうなったのかは知らないが、物心ついた頃にはこんな状態だった。
父親は政治家だった。国家の形骸化を阻止する為に各地を巡り、民衆の声を聞き国のあり方を変えようと必死だった。そんな父を見てきたからか一概に政府を批判することも、かといって国の腐敗を甘受することもなかった。
しかし皮肉にもその意思が万人に通じる訳ではない。政治批判を主とするテロリストに襲われ父は志半ばで死んだ、その意思を継ごうという者もおらず更に腐敗していく世界を死んだ魚のような目でぼんやりと眺めていた。
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