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明日、私の命は尽きる。死ぬ時が分かるということが、これほど幸福なことだとは知らなかった。
時間の流れは緩やかで、人は暖かく笑顔に溢れている。
たまに聞こえる口論も、「まあ、落ち着きなさい」と口に出しそうになるほど心は静かで、穏やかだ。
世界が愛おしい。今なら素直にそう思える。
なんて都合がいい奴だろうと自分の脳天気さに呆れてしまう。
……思えば走り続けの毎日だった。初仕事でいきなり事故を起こした時は、心臓がわし掴みされたようにゾッとした。
あれから十数年の月日が流れ、そのようなミスはしなくなった。しかし、それは私の功績ではない。
これまで何人もの人間と仕事をしたが、今の相棒はずば抜けて優秀だ。
彼の仕事に取り組む姿勢は、若かりし自分を想起させる。その度に少しの苛立ちと言いようのないくすぐったさを感じたものだ。
しかし、そんな彼の表情は冴えない。今日だけではない。何ヶ月も前からこの状態なのだ。
なんと優しい青年なのだろう。
『終点、〇〇~』
機械的なアナウンス。今日の――いや、最期の仕事が終了した。
明日、私は死ぬ。スクラップとなって。
ありがとさん。
こんな古いバスを運転してくれてよ……。
テーマ:擬人化
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