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あ、何か言わなきゃ。
でも日野くんに話しかけられたのなんか初めてで、ましてそんな眩しい笑顔を向けられるとは思ってなくて。
どう言ったら適切なのか分からない。
わたしはペコッ、と頭を下げただけで終わった。
「樋口、もしかして機嫌悪かった?」
日野くんは優しい。
失礼な態度をとったのに怒らない。
話せばいいのに、違うよってちゃんと言えばいいのに、動かない口が恨めしい。
全然自慢なんかじゃない。
わたしは必死に首を振った。もちろん横に。
「違うの?なんだ、怒らせたのかと思って焦った」
日野くんは、優しい。
「やさしい…んだね」
日野くんには聞こえないくらいちっちゃい声。
「え?ごめん、もっかい言って」
やっぱり聞こえてなかった。
わたしはまた首を振って、なんでもないよと伝えた。
「…そう?」
うん。なんでもないよ。
聞こえなくていいの。
わたしの声は、日野くんに聞こえなくてもいいの。
日野くんの声がわたしの耳に届いてたら、
それだけで世界がキラキラして見えるから。
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