長屋

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「掴まれたから骨折したんだよ」 前から思っていたが…… 「……馬鹿かお前は」 「何でだよ!」 「足を掴まれたくらいで骨折だと? その場にプロレスラーか何かいたのか? だったら、 今すぐに警察に言うんだな。 変質者が出ましたって」 「信じてくれないの!? まあ、 俺も始めは疑ったけどさ……」 辰巳の顔が少し曇った風に見えたのは気のせいか? 「疑ったけど……何だよ?」 少しの沈黙が流れた。 俺は辰巳を見ている。 辰巳は下を向いている。 ……この沈黙、 居心地が悪い。 俺は口を開いた--しかし、 それよりも先に俺の目の前のやつの口が動いた。 「…………があったんだ」 俺の目の前のやつ。 当然そいつは辰巳である。 しかし、 何故か口ごもって言ったから聞き取れない。 「……ん? 何があったんだ? はっきり言えよ」 「……手の跡が……手の跡があったらしい」 「……手の跡?」 「岬さんの足には手の跡があったんだってさ……」 辰巳は気味悪そうに俺に言ってきた。 ……どうやら本気だな。 ……この話。 「……岬さんは、 どうしているんだ?」
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