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「つぐみ…お母さん欲しくないか」
「うん?」
某月某日の我が家の食卓。食事時になってようやく2階から降りてきたかとおもいきやいきなり父親にそんなことを言われた。
「お母さん?お母さん…いたらいいよね、もうあたしが家事全般、御近所様トークしなくてよくなるもん」
いやあ、あれはキツイ。別に話したくもないのにごみ捨て時やら回覧版やら回すときに付き合う奥様トーク。
「いい天気ですねぇ」
「ホント、これだったら洗濯物すぐに乾くわ」
「それより聞いた?あそこのお宅のお子さん、こないだ変な子たちと一緒だったのを見かけたのよぉ」
「あ、それ私も見ましたよ」
「ええ、本当に?あそこの子はちょっと引っ込み思案だと思ってたけどわからないものねぇ」
「私のところ大丈夫かしら」
「絶対あれ、脅されたり貢いでたりしてるんじゃないかしら」
「恐喝?やだ、ご両親は何も言わないのかしら」
「でもあそこの奥様も変じゃない?なんか人の輪に入らないっていうか…」
「わかるわ、こないだ回覧版まわしたときもこう、ブスッとした顔ででてこられたもの」
「人付き合い悪いわよね」
「こわいわぁ」
いや、あたしだったら絶対この会話の方が怖い。こんな噂話されたらもう大手を振ってお外歩けない。あたしもあんまりこんな輪の中には入りたくない。ともすれば。
「……うん、お母さんちょう欲しい」
考えてみればお母さんとか素敵すぎる。家に帰ってきて「ただいまー」っていったら「おかえりー」って言ってもらえるし、「今日のご飯なぁに?」とか「お母さんあたしの靴下どこー?」とかも言える。お母さん万々歳!
ていうか、こんなことをもちだしてくるってことはつまり。
「え、なに、お父さん再婚するの?」
「ぶぶぉふぁ!」
お父さんの口から出たご飯粒を華麗によける。
「きたな!落ちたやつ自分でひろってね」
「いや、あ、うん…………なんでわかったの」
「だって普通お母さん欲しいとか言わないでしょ」
「………わかるもんだなあ」
わかるさ、よっぽど鈍感じゃないかぎり。
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