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電車はいいな。
日が完全に沈んだ頃、仕事帰りの電車に揺られながら、沢木優助(さわきゆうすけ)は考えた。
別に、優助は電車オタクというわけではない。電車の中にいれば、例え自分がくだらないことを考えていようが、深刻なことを考えていようが、そんなことは一切関係なく目的地へ近づいていく。そんな状況が、たまらなく楽だからだ。
それに、電車の中でなら、優助の生れつき鋭い目つきのために喧嘩を売られることはあっても、対応を間違えないかぎりは、暴力沙汰にまで発展することは少ない。
しかしそんな心地良い空間も、大抵は長く続かないものだ。その日の電車では、周囲が耳を塞ぎたくなるほどの大きな声で話している若い男女がいた。恐らく、二人とも泥酔しているのだろう。
優助も最初はさほど気にしていなかったが、時間が経つに連れてその声は大きくなり、ついに優助の許容範囲を超えた。
優助は溜め息を一つついてからゆっくりと立ち上がり、その男女の元へ歩いていった。
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