空箱

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空箱

「ねぇ慎二……何故そんなことを言うの?」 騙されない。 俺は絶対に騙されない。 信じていいのは、自分自身だけだ。 「ほら、こっちおいでよ。そこの世界は苦しいんでしょ?」 優しい声。 歌うように、諭す声。 目の前に手が差し伸べられた。 しかしそれはきっとフェイク。 俺はその手を拒否する。 「……慎二」 哀しげな、声。 だが今の俺はそんな声色に騙されるほどバカじゃない。 「嘘吐き」 そう、誰も信じてはいけない。 『この世界』は嘘偽りでできている。 ――皆が嘘をついている、この世界。
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