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お婆さんのお菓子の家に置いて貰ってから、そろそろ一月が経とうとしている。
いい加減ここでの暮らしにも慣れてきた。
僕としては、このままここで暮らすのもいいかなと思い始めている。
でも、グレーテルはそうは思っていないらしい。
「もう! 毎日毎日コキ使ってくれるじゃない、あのババァ!! いい根性してるわっ」
薪割りをしている僕の横でグレーテルが堂々とさぼっている。
確かグレーテルは、お婆さんに水汲みを頼まれていたはずだ。
水は汲んできたらしいけど、それを一向にお婆さんのところへ、持っていこうとはしない。
「でもね。それもあと少しの我慢よ、お兄様。もう少しで口を割りそうなの。絶対、三日以内には聞き出して見せるわ。そのために一月も我慢したんだから」
グレーテルが不敵に笑う。
僕にはグレーテルが何を企んでいるのかはわからないけど、グレーテルの歪んだ笑顔に何か嫌な物を感じずにはいられなかった。
「さてと、そろそろババァの機嫌を取りにいかないと」
そう言うとグレーテルは水桶を両手で持って家の中に入っていった。
「遅くなってごめんなさい、お婆様。途中で転んでしまって、もう一度汲み直してきたんです」
お菓子の家の中から、グレーテルのこんな声が聞こえてきた。
よくやるよ、本当に……。
呆れ半分憐憫(れんびん)半分の気持ちを抱いて、僕は黙々と薪割りを続けた。
家の中からは、グレーテルとお婆さんの楽しそうな声が聞こえてくる。
そして、三〇分が過ぎた頃。
「ギャーーーァァァァ!!!」
突然、耳をつんざくような悲鳴が、お菓子の家から聞こえてきた。
なんだ!?
僕は慌ててお菓子の家に飛び込んだ。
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