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「あら、お兄様。どうしたの? 血相を変えて」
目の前には、落ち着き払ったグレーテルが、戸棚の側で、小箱を抱いて立っていた。
……グレーテル、その箱は?
お婆さんは?
さっきの悲鳴はいったい何だったんだ!?
「なんて顔してるのよ? ただでさえグズなのに、そんな顔してると、グズのうえにバカに見えるわよ、お兄様」
……グレーテル、おまえ何をしたんだ?
僕の剣幕を感じ取ったらしく、グレーテルが開き直って、僕に食ってかかる。
「なによっ? 私はただ魔女を退治しただけよ!! 何か文句でもあるって言うの!?」
グレーテルが僕を睨みつける。
「だいたい、こんな森の中にババァが一人で住んでいるなんて、怪し過ぎるじゃない!? しかもお菓子の家なんて、いかにも怪しいわ。きっとあのババァは、森で迷子になった子どもをお菓子の家で誘い出して、のこのこやって来た子どもを食らっていた、人食い魔女だったのよっ! 魔女は昔から火あぶりって、相場は決まってるでしょ? だから私は、魔女を火の燃え盛るかまどの中に押し込めてやった。それだけのことよ」
なんだって!? それじゃあ、あの叫び声は……。
「それよりもこれを見て、お兄様」
愕然(がくぜん)としている僕を無視して、グレーテルが抱えていた小箱の蓋を開けて、中身を僕に見せる。
中には真珠や、見たこともないような赤や青色をした宝石が、ぎっしりと詰まっていた。
「すごいでしょ? こんな森の中にお菓子の家を建てて、一人で住むようなババァだったら絶対、貯め込んでると思っていたのよ。予想以上だったわ。まっ、そのぶん口が堅くて聞き出すのに、ババァの機嫌をとったり、関心を引いたりなんかで、一月もかかったけどね。でも、苦労しただけのことはあるわ。ねぇ、お兄様」
箱の財宝を手で弄(もてあそ)びながら、グレーテルが微笑む。
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