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僕とグレーテルはお菓子の家の魔女の財宝を携(たずさ)えて村へ帰った。
グレーテルは父さんや母さん、村のみんなに、森で迷子になってお菓子の家の魔女に捕まり、食べられそうになったところを、なんとか魔女を退治して無事に帰ってきたのだと話した。
そして、その証拠として、小箱に入った財宝を取り出して見せた。
僕はその光景を、少し離れた場所から眺めていた。
まるで、英雄のように扱われているグレーテルを。
それから、数日が過ぎた。
財力という名の権力(ちから)を手に入れたグレーテルは、もう天使の仮面をかぶることはなくなった。
これまでグレーテルが大人たちの前で良い子にしていたのは、大人たちが、両親が、自分を庇護(ひご)してくれる存在だったからだ。
だが、自分の力で権力(ちから)を手に入れたグレーテルは、もう誰も畏(おそ)れなくなった。
誰に対しても、我儘(わがまま)で傲慢(ごうまん)で残虐(ざんぎゃく)な素顔を晒(さら)して生きている。
それは父さんや母さんに対しても例外ではなかった。
あれが食べたい、これが欲しいと言っては、父さんや母さんを顎(あご)でこき使っている。
そして、高らかに嘲笑するのだ。
かつて、僕を嘲り笑ったときと同じ表情で。
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