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「助けてっ! お兄様!!」
グレーテルが家の中に飛び込んできた。
「村の人たちが私のこと『魔女だ』って。私のこと殺そうとしているの! お願い、助けて!!」
とうとう、この日が来たか。
僕はグレーテルの震える身体を抱きしめながら、心の中でほくそ笑んだ。
「なんて恩知らずなの? 権力(ちから)の無い者は今までどおり、大人しく私に媚びへつらって、私のお願いを聞いていればいいのよっ! それなのに、急に何よ!? ちょっと、都会まで行って、今流行のドレス買ってきてって、いつもどおりお願いしただけでしょ? それぐらいのかわいい我儘(わがまま)で怒るなんて、みんな心が狭すぎるのよ! だいいち、誰のおかげで村が潤(うるお)って、食うに困らない生活が出来てると思ってるのよ! 全部私のおかげじゃない!? 私が魔女の財宝を持ち帰ったおかげでしょ?」
恐怖におののきながらも、グレーテルの口からは誰かへの非難の言葉しか出てこない。
ある意味、立派だよ。
僕はグレーテルに憐みに似た感情を抱いた。
もし、グレーテルがほんの少しでも自分の罪に気がついて謝罪の言葉を口にしていたなら、僕の心も少しは揺れ動いたかもしれないのに……。
でも、もう遅い。
すべては僕の思い通りに動き出したのだから。
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