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グレーテルは僕に罵声(ばせい)を浴びせ続けた。
しかし、僕には効果が無いとわかると今度は猫撫で声で切り札を出してきた。
これまでずっと僕を縛り付けてきた魔法の言葉を。
「無理に、とは言わないわ。お兄様がその気になるまで何日でも説得してあげる。
……昔のようにね」
グレーテルの目が怪しく光る。
こうなると僕は全身が震え、グレーテルの言いなりになってしまう。
かつて、僕はグレーテルの機嫌を損ねて半日近く家のかまどの中に閉じ込められた。
かまどの中は暗くて、狭くて、とにかく恐ろしかった。
どんなに内側から泣き叫んでも誰も気づいてくれなかった。
ようやく外へ出されたとき、グレーテルは煤(すす)だらけで泣きじゃくる僕を嘲り笑った。
あのときのグレーテルの嘲笑が、今でも頭の中にこびりついている。
その後、いくらグレーテルに閉じ込められたと訴えても、周囲の大人達は誰も信じちゃくれなかった。
大人達は僕よりも、グレーテルの嘘偽りの言葉を信じたのだ。
それ以来、僕は自分の意見を言わなくなった。
言っても無駄だと悟ったからだ。
「それでお兄様。どうするの? 行くの? 行かないの?」
グレーテルが最終通告をする。
僕に選択の余地は無かった。
こうして、僕とグレーテルは夜の森へ足を踏み入れたのである。
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