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家を出て初めての朝日が顔を出した頃。
「あ~もうやだ! お腹は空くし、足は痛いし、もう歩けないわよぉ」
とうとうグレーテルがその場に座り込んだ。
こうなるだろうとは予想していたけど、それにしても早過ぎるだろう。
「なにボーと突っ立ってんのよ? 暇なら果実の一つも探してきなさいよ。ほんっとグズなんだから!」
それだけ怒鳴る元気があるんなら大丈夫だよ、と心の中で呟く。
それでもグレーテルの命令には逆らえないので、ガサガサと草を掻き分け、食べられそうな木の実を探す。
正直、何を持っていってもグレーテルは絶対、何か文句を言いそうだなと思いながら。
そして、僕は食べられそうなものを探し求めて、グレーテルのいるところから少し離れた森の奥に進んでいった。
すると、茂みの向こうから、森の中ではするはずのない甘いお砂糖の匂いが漂ってきた。
僕はその甘い匂いに誘われて茂みを掻きわけ、そして見つけてしまった。
まるで子どもの願望をそのまま形にしたような、甘い甘いお菓子の家を…。
僕はすぐにグレーテルのところまで戻って、このことをグレーテルに知らせた。
「はっ? 何言ってんの、お兄様。夢でも見たんじゃないの?」
グレーテルは僕の言うことを、まったく信用しなかった。
その挙句、証拠を見せようとお菓子の家に連れて行こうとした僕に、グレーテルはこう言った。
「もう一歩も歩けないわよ! どうしてもって言うんなら、お兄様が負ぶってよ」
僕の方がグレーテルより何倍も疲れてるのに……。
僕の心に、グレーテルに対する怒りと憎しみが蓄積されていく。
長い年月を掛けて少しずつ、だけど確実に。
しかし、それを表には出さない。
僕はそれほど、愚かではない。
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