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グレーテルに請われるまま、僕はグレーテルを背負い、森の奥にぽつんとたたずんでいるお菓子の家へ連れて行った。
「すごい!! こんなにたくさんのお菓子、私見たこと無い」
茂みを掻きわけ、お菓子の家を目の当たりにしたとたん、グレーテルは僕の背から飛び降りて、お菓子の家目掛けて、駆け寄って行く。
負ぶってやった僕には一言の礼も無く。
お菓子の家は屋根がチョコレートで出来ていた。
外壁はビスケットで、生クリームの塗料が塗ってある。
そして、外壁の模様は砂糖漬けのフルーツだった。
「おいしぃ~!! 私、こんなにおいしいお菓子を食べたの初めてよ!」
グレーテルが口の周りをベトベトにしながら狂喜の声をあげる。
いいんだろうか。
森の中に突如として現れた不審な家を食べてしまって。
後で何も起きなきゃいいけど……。
僕の心配をよそにグレーテルは一心不乱にお菓子の家を食べ続けている。
すると、ドアが開いて、中から黒いローブを身にまとい、杖をついたお婆さんが出てきた。
「これこれ。これ以上、私の家を食べないでおくれ」
「えっ……。この家、お婆様の家だったの? ごめんなさい。とてもお腹が空いていたものだから……」
口を手で拭って、グレーテルが申し訳なさそうにお婆さんに謝る。
いつもながら、この豹変ぶりには、ただただ感心する。
「本当にごめんなさい。お婆様のおうち食べちゃって……」
「いやいや、もういいんだよ。それよりもお腹が空いているんだろう? 中においで。ご馳走を作ってあげよう」
「本当に!? ありがとう、お婆様」
グレーテルが無邪気に笑う。
いつもこの笑顔で人を騙すのだ。
そして、お菓子の家のお婆さんも例外ではなかった。
言葉通りグレーテルと僕を家の中に招き入れて久しぶりのご馳走を食べさせてくれた。
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