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「ごちそう様でした。とてもおいしかったです」
久しぶりに口にするチキンをお腹一杯食べた後で、グレーテルがお婆さんにこう言った。
そしてそのあとすぐ、グレーテルは、僕も気になっていたことをお婆さんに訊いた。
「ところで、お婆様はどうしてこんな森の奥に一人で住んでいるんですか? それにこのお菓子の家は?」
「それはねぇ……」
お婆さんがどこか遠い目をしながら、案外あっさり経緯(いきさつ)を話し出した。
「私も……昔は、街中に住んでたものさぁ~。けれど……色々あってねぇ。すっかり、人嫌いになってしまって。……それで、こんな森の奥に引きこもっているというわけさぁ。だけど、……やっぱり、一人は寂しくてねぇ。それで思いついたのが、このお菓子の家、というわけなんだよ。……最近は、飢饉に見舞われているせいか、子どもを森に捨てる親が増えてねぇ~。そういう子が森の中を彷徨(さまよ)っているうちに、お菓子の匂いに釣られて、ここへやって来るんだよ。お前さんたちの前にも、何人もねぇ」
しみじみと一言一言噛みしめるようにお婆さんは語った。
でも、それなら僕たちの前に来たという子どもたちはどこに消えてしまったのだろう?
「私の話はもういいだろう? 今度はお前さんたちの話を聞かせてくれないかねぇ」
遠くを見ていた目を僕たちに向けてお婆さんが言った。
「お前さんたちは、どうして、こんな森の中に来たんだい?」
……それはグレーテルが我儘(わがまま)を言ったから。
「実は……私たち、森に捨てられたんです!」
僕の心の声を無視してグレーテルが勝手に話を作り出す。
「私たちの父親は木こりで、もともと裕福ではなかったんです。家族が食べていくだけでもやっとの、そんな生活で……。それなのに今年は凶作で……。その影響で作物が高くなった分、薪が売れなくなって、それなのに物価は高くなる一方で……。それで、とうとう食べていけないって言って、私たち兄妹は両親に森の中に置き去りにされたんです……」
目にうっすらと涙を浮かべてお婆さんに訴えかける。
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