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今日は雨が降っておりますね。こんな風に細い雨が降り、見渡す景色の何もかもが鈍色にけぶるような日は、あのときのことがまるで昨日の事のように思い出されるのでございます。
目の前には白目を剥いて倒れる、黒いフードの女。あたくしの足に容赦なく振り下ろされた鉈(なた)。飛び散った紅い血液。
……ああ、ほんの少しだけ思い出噺をさせてくださいましね? あれはまだ、あたくしが女としての自我に目覚め、それからいくつきも経たない頃のお話でございます。
当時あたくしは、母の再婚相手の家に身を寄せておりました。あたくしと、母、そして少し年の離れた妹の三人でございます。義理の父には、当時、私たち姉妹とあまり年の変わらない娘が一人おりました。あたくしの義理の妹となる者でございました。そうですね。当時を思い出す限りでは、あたくしはたぶんに意地悪な義姉として、彼女の目に映った事でございましょう。言い訳が許されるのでれば、あたくしはきっと、その義妹に嫉妬していたのでございます。義妹はそれはそれはとても愛らしい顔をしておりました。
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