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だが彼は驚く事もなく、ただ愴然と一点を見ている。
怖くはないのだろうか。
「僕はね、死んだ先には、何もないと思うんだ」
考えを読み取ったかの様に、口角を吊り上げて、言った。
「天国も地獄も、地面すらない。生物も、音も色もない、そんな場所だ」
つまり彼は、"堕ちても怖くはない"と。
「随分と、余裕じゃないか」
「そんな事はないよ。内心びくびくしてる」
少し自嘲気味に笑う。
でも、と続ける彼の目は、どこか寂しげで、だけど迷いのないものだった。
「それでも、この世界で生きることを許されているのなら、僕はそれに従わなければならない。どんなに怖くてもね」
「・・・・・・」
俺は、何も言うことが出来なかった。
なんて情けない。
「・・・無理をすることはないよ」
「!」
「ゆっくり追い付けばいい」
その二言が、俺に強く突き刺さる。
嗚呼、なんて
暖かい――・・・。
「・・・ありが・・・!」
礼を言いたくて顔をあげると、彼は少し遠い場所にいた。
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