0の法則

1/3
前へ
/4ページ
次へ

0の法則

静寂に支配された真夜中の森の奥に、彼らはいた。 一言も発せずただ向き合って、一方は剣を、もう一方は銃を構えている。後者はどこか泣きそうだった。 不意に、前者が口を開いた。 「君は、此方に来て何を思った?」 問われた方の時間が、一瞬止まる。 「何を見た?何を聞いた?何を感じた?」 問うているのに、けれどどこか見越した様な、そんな問い方だ。 俺は少し考えてから、質問に答える。 「俺は――・・・世界を知った」 「世界?」 「ああ。お前と出逢って、お前を此所まで追い掛けてきて、色んな奴等に出逢った。色んな物を見た。・・・何も知らなかったんだよ、俺は」 大好きだった故郷を離れて、知らない国を渡って、言葉の通じない人に出逢い、そうして知らなかった世界を知った。 世界は、自分が考えていたよりも広大で、自分がとても小さい事を自覚していなかった訳ではないけれども。 いつか、自分も"あの人"と同じ様に、大きな存在になりたいと思った。 「やっぱり、無理だったな」 彼に聞こえない様に呟き俯いて、代わりにあげた銃口を、彼にゆっくりと向ける。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加