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呼吸が荒い。
肺が痛い。
手足も重く動きが鈍い。
もう疲れた、もう辞めたい。
それでも俺には、負けられない理由がある。
俺は全神経を対峙する相手に向け、左足を一歩踏み込み裂帛の気合いと共に右手を突き出した。
それは対峙する相手の顔を守る防具に直撃した。
それは正に渾身の一撃であり、俺が十年間空手に捧げた中で最高の突きだった。
相手がガードすることすら許さぬ程の速さで突いた逆突きは、一撃で相手の意識すら奪うものだった。
「一本!そこまで!」
今まで俺達二人を見ていた審判が右手を上げて高々と宣言を上げた。
「勝者、高峰遼弥!」
その主審の声、会場中の歓声の中、俺は立っていた。
全国中学生空手道大会。
その組み手の部で俺は優勝を果たしたのだ。
十年間の努力が報われた瞬間。
俺の夢が実った瞬間。
あの約束、優香との約束を果たすことの出来る瞬間。
俺はただ、武道館の中心で喜びの声を上げることしか出来なかった。
俺は表彰式で賞状、メダル、トロフィーを受け取り、歓声の最中退場する。
優香との約束、それは空手の全国大会で優勝出来たときに果たすと決めていた。
約束は尊いもの。
絶対に守らなければならない。
俺は退場すると直ぐさま師匠に挨拶と御礼をして更衣室に飛び込んだ。
優香は必ずこの会場で俺を見ていてくれている。
だからこのまま優香の元に向かい、告白しよう。
俺はそう心に決めて賞状等を全て専用の更衣室のロッカーに入れた。
そして胴着から着替える時間すら惜しく感じられて、更衣室を飛び出した。
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