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帰っていく観客、中には知り合いも居て声をかけられたりもした。
その皆に返事をしたかったのは山々だが、今は告白するほうが先。
俺は声をかけてくれた人達に、ありがとう、とか、次も頑張るよ、とか当たり障りの無い返事を返して、優香を探した。
優香は少し茶色がかかった長髪を左右でツインテールにしている。
背はそこまで高くないが、十年以上の付き合いだ。
見ただけで何と無く解る事くらい容易い。
それに俺の試合を見終えた後、その会場の少し高い位置にある窓から外を眺めるのが優香の癖だった。
今回もそうしていることを確信している俺は、三階まで階段を駆け上がり、廊下を走り回った。
三階を半周ほど走った頃、ようやく見慣れた後ろ姿を見付ける事が出来た。
服は私服で、白いシャツにジーパンと男っぽいラフな姿をしている。
これも優香の癖で、俺の試合を見るときは必ず男っぽい服装でいる。
普段は可愛い系統の服を着ているのでギャップは感じるが、それも昔からの事なので今更言うような事でも無い。
俺は優香の元へ更に速度を上げて駆け寄った。
「優香!」
俺が名を呼ぶと、一度肩が跳ね上がり、恐る恐る優香は振り返った。
こんな時何時もならば優香のほうから賞賛の言葉をかけてくれるのだが、今日は何処か雰囲気が違うように見えた。
しかし優勝し、舞い上がっている俺にはそんなことは全く関係なく、すぐに話し出した。
「見ていてくれただろ?俺全国大会一位になったぜ!」
「う、うん。おめでとう。」
そんな返事を返して来る優香に更なる違和感を感じつつも、俺は言葉を続けた。
「だからってわけじゃないけどさ、昔約束しただろ?俺、優香のことが好きなんだ。ずっとずっと好きだったんだ。……優香、俺と付き合ってくれないか?」
十年間の想いを、これだけの短い言葉に込めるのもどうかとは思うが、俺は優香に気持ちを伝えた。
答えは当然承諾だと想っていた。
俺が言うのも何だが、優香は小学校、中学校と俺にくっついてばかりだった。
嫉妬深く、俺が女の子と仲良くしているだけで怒るような時期もあった。
おかげで仲の良い異性が少ないが、それでも別に構わなかった。
俺は優香の事しか恋愛対象として見ていなかったから。
そんな優香だから必ずOKしてくれる、そう確信めいたものすらあった。
「…ごめんね、遼弥君。」
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