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「今日は、俺も分からないので、次にいらっしゃるまでに聞いておきます。」
店員は、今度は怯む事無く、姿勢と言葉遣いを正して、ハッキリと答えた。
(何よ……やれば出来るじゃない……)
「……解ったわ。それじゃ、そうね……。また、明日来るから」
そう用件を告げて帰ろうとしたのだが、生憎(あいにく)と、通路は人一人がやっと通れる程の幅しか無く、店員の男が邪魔で通れない。
「通れないんだけど」
私がそう告げると、男はあたふたと端へ寄る。
(コイツ……また情けない顔になった……。
さっきまでは、少しはマシかと思ったのに……もしかすると、さっきは無理をしていて、今の顔が普通なの……?)
何故かは分からないが、少しだけ落胆つつ、男の空けたスペースを通り抜けようとした。
その時、ある事に気が付いた私は、胸がドキッとして、僅(わず)かに体が強張る。
(そう言えば……私、父様以外の男性と、こんなに近付いた事……無いかも……)
妙に息苦しいのは、この狭い店のせいだと、自分に言い聞かせて店員と本棚とのスペースへ体を滑り込ませる。
すれ違う時、バレ無い様に横目でチラッと店員の顔を見上げて見る。
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