過去と未来

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ヴヴ… 小さな振動音が響き始める。 最初は、耳をすませば聞こえるほどのもの。 それが徐々に大きさを増す。 「――……」 少女が唱える呪文に合わせ、音が響き、同時… ヴヴヴヴ…!! 黒いものが姿を見せた。 握りこぶし大の、黒い塊。 まるで宙にひびが入ったかのような、黒の裂け目が、そこに現れた。 「…見つけた…」 その亀裂を確認し、少女は一度、息をつく。 そして。 ひゅぅ――… 「…っ…?」 空気が変わった。 一瞬で周りが、張り詰めたものに変わる。 「やっぱ…慣れへんな、これ」 うぅ、とうめきながら、三角帽子のエドはその場に膝をつく。 その横で、彼を見下ろしながら、 「魔力の影響ってやつか?」 ウィルは尋ねた。 エドが、うんうんうなりながら答える。 「そやな…直接受けてるわけやないのに、これほどとは…」 「そんなにひどいん?」 「桁違いやわ」 またうなり始めたエドから目を離し、ウィルは少女を見つめる。 ふわ、と黒髪がなびく。 真剣な表情で、なにかぶつぶつ唱えている。 彼女が力を使うときは、いつもこんな感じだった。 舞い上がった木の葉が、魔力にやかれ、散々になっていく。 ヴヴ…!! 「――……」 やがて少しずつ… 少しずつ、黒の亀裂が、小さくなっていく。 ヴ… 大きさに合わせ、音も。 数分たったころには、黒い亀裂はどこにもなくなっていた。 「…ふぅ」 「お疲れ」 気が抜けたのか、ふらと倒れそうになった彼女を、ウィルは受けとめる。 「眠いなら、寝てていいで?」 「平気」 胸にもたれかかりながら、少女は見上げてきた。 大きな緑色の瞳に見つめられて。 「…なん?」 ちょっとどきりとしながら、尋ねると。 「パン返せ」 と一言言われ… 「…はいはい」 大人しく、どでかいパンを、返してやった。
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