過去と未来

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リリリ、リリリ。 「…うん?」 小さな鈴の音。 ウィルは辺りを見回す。 エドとティアは音に気づいていないらしい。 エドが、パンを奪おうと手を伸ばし、ティアがそれをはたいていた。 リリリ、リリリ。 「…あぁ」 思い出し、ウィルは右耳に手をあてる。 そこに、赤い色をした石が埋めこまれた、イヤリングがあった。 石に指をあてながら、彼は話す。 「はい」 すると、 《ラストです》 声が聞こえた。 石を通じて、話すことができるもの。 使用者のみしか聞こえない。 向こうも石を使って、話しかけている。 「ああ、どうや? そっち」 《終わりました。みんな、大人しくなりましたよ》 「そっか、よかったな」 《そちらは?》 「今ちょうど終わったとこや」 なにか騒がしくて、彼は視線を移す。 エドはどうしてもティアのパンがほしいらしい。 本格的な口論になっていた。 (…半分やればいいのに…) 《ウィル?》 「あぁなんでもない」 《…あの…》 急に、向こうが口籠もる。 なにを言いたいのかはわかっているので、苦笑しながら、待つ。 向こうが言ったのは、やっぱり。 《…や…えと…あの、ティアは、大丈夫ですか?》 「……」 確かこれで3回めやな、とか考えながら、答える。 「元気すぎて逆に困るわ」 《…そっか…》 「そっちは? ノヴァにパール」 《全然元気ですよ。あ、でもさっきノヴァが転んで…》 なんて。 少しの会話のあとに。 「じゃ、最初んとこで合流な」 と言って、切った。 「さて…」 今もまだ続いているパン争奪戦。 彼はため息をつきながら、2人の間に割って入る。 「ほら行くぞ!! 準備せぇ!!」 「なー頼むって、せめて半分くらい…」 「いやや」 「人の話聞け!!」 「うお、もう行くんか?」 「ああ、向こうも終わったみたいやし、合流するぞ。 ティア、ちゃんとマオに連絡しとけな」 「あーい」 …… …これが… "現在"の、彼ら。
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