過去と未来

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過去があるから未来があって。 未来のために、過去を振り返り生きていける。 人は、それができる生き物で。 嫌な記憶も。 悲しい記憶も。 すべてを含んで、今の「自分」があって。 忘れていいことなんかない。 だから。 ほら、今も。 例えつらいことだって。 泣きたくなることだって。 目を閉じ、じっと考えてみれば。 ほら。 ね? 見えてくる。 「……」 そして、彼は。 目を開けた。 すると。 目の前には。 どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど!!!! 「だぁああああああっ!!!!」 視界いっぱいに飛びこんできたソレに、彼は腹の底から絶叫した。 過去? 未来? あは。 なにそれ、食べれるの? 「ああああああなんやっちゅーねん、もうっ!!」 でかい声で文句を言い、彼はソレに背を向けて、全力で走り出した。 後ろから、 どどどどどどどどどでぐしゃんどどどどどどどどど!!! 「…今、一匹転んだやろ…」 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!! 「あーわかったわかった俺が悪かった!!」 さらに勢いを増したソレにとりあえず謝ってから、なおも彼は足を動かした。 つんつん尖った、黒い髪。 炎のような赤い瞳。 まとう鎧の胸の部分には、鳥が羽ばたくような形の紋章が彫られている。 腰には長剣。 そんな格好で、彼はさっきから全力で走っていた。 理由は… 追いかけてくる、大量の、ソレのせい。 「あぁっ、たく…き…じゃない、エドのやつ、なにしとんねん…」 走りながら、ぶつぶつつぶやく。 かなりの速度で走っているというのに、彼は息一つ乱していない。 それどころか、 「…ちゅーか…」 後ろを向き、げんなりする余裕すらあった。 背後。 砂煙をあげながら、執拗に追ってくるソレらは… 「…うさぎって…」 そう。 それは。 誰がどー見ても、うさぎの大群だった。
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