過去と未来

6/10
前へ
/80ページ
次へ
「ふぅ…」 去っていくうさぎの大群を眺め、青年は息をつく。 たまに、 「…げほ、ごほっ!?」 舞い上がった土煙でむせたり。 とにかく、あれだけ追っかけてきていたうさぎは、一目散に逃げてしまった。 「はぁ…疲れた」 肩をこきこき鳴らして。 「おーい、もうえぇぞー」 彼は声をあげた。 …すると。 がさがさっ。 近くの茂みから、音がした。 背の高い草をかき分け、姿を現したのは… 小さな、丸っこい青年だった。 茶色の髪、丸い輪郭に、ずんぐりした体。 頭に三角帽子。 手には、身長より長い、杖。 そんな青年が、がさがさと草を踏み越え、やってくる。 彼に向かって、 「遅いわ!!」 黒髪の青年は叫ぶ。 それに、三角帽子は、ぶすっとふてくされながら、言い返した。 「しゃあないやろ。これ召喚すんの、初めてなんやから」 と、これ、と、例の目玉を杖で指した。 うさぎを追い返した、謎の目玉… 下には、光輝く魔方陣が描かれている。 「なんや、これ?」 見上げるほどでかいそれを見上げながら、尋ねた。 三角帽子が答える。 「ただの見かけ倒しや」 「……へ?」 「だから、見かけ倒し。なんの能力もあらへんねん」 「……」 よくわからないので、もう一度、目玉を見上げる。 でーんと効果音が聞こえてきそうな迫力… 「……」 でも。 よく見ると、それだけ。 動くとか話すとか、なんにもしない、ただの目玉。 「さっきしゃべったよな?」 「あれは俺や」 「…これ…なんか意味あんの?」 聞くと、三角帽子が苦笑する。 「特になんの能力もあらへんけど、例えばさっきみたいな下等なガイアだったら、脅しには使えるんよ」 「なるほど」 「さてと、戻れっ!!」 杖を振った。 カッと一瞬だけ光が強まり、魔方陣が姿を消す。 同時に、目玉も消えてしまった。 「しっかし、逃げ足だけは早いんやなー、ウィルさんは」 「だけ、は余計じゃ」 ふっふーと不気味に笑う三角帽子に、ウィルと呼ばれた青年は嫌そうに顔をしかめた。 「んで…」 その表情のまま。 「うちの姫さまは?」 「ああ」 と、三角帽子は後ろを向いて。 「あそこ」 草わらを指差した。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加