過去と未来

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指差されたほうに、顔を向ける。 するとそこに、1人の少女の姿があった。 艶やかな、黒い髪。 透き通るような白い肌。 短めのスカートから、すらりと伸びる長い足。 非常に美しい少女だった。 まるで、森の妖精かと錯覚してしまいそうな、可憐な少女がそこにいた。 「……」 それに。 彼女の姿に、なぜかウィルはさらにげんなりする。 はぁ、と額を押さえたりする。 理由は… 妖精かと思ってしまいそうな可憐な少女が… なぜか、どうしてか。 自分の顔よりでかいパンに、一生懸命にかぶりついていた。 「…あれ、どっから出した…?」 聞くと、 「いや…俺も、気づかんかったわ…」 と言われ。 ウィルは無言のまま、少女につかつかと歩み寄っていった。 少女は、青年が近づいていくことにも気づかず、パンと格闘していた。 目の前に立ち、もう一度、ため息をついて。 「うらっ!!」 「にゃあっ!?」 乱暴に巨大なパンを取り上げた。 びっくりしたのか、少女が奇声をあげる。 ぱっとこっちを見上げると、威嚇しながら伸び上がった。 「なにすんやぁ!?」 「のんきにパンかじっとる場合か!?」 「返せ!! かー…」 と、少女が叫ぼうとしたとき。 ウィルは即座に、彼女の口を手でふさいで、 「アホ、そっちで呼んだらあかん言うたやろが!!」 「むー!!」 口をふさがれ、じたはたもがき出す。 2人のじゃれ合いを、後ろから半笑いしながら見ていた三角帽子が、まぁまぁとなだめる。 「ウィル、ティアだって悪気はないんや」 「あんなぁエド…あんまり甘やかしてっと、痛い目みんで」 さらに深いため息をつきながら、彼は手を離した。 少女がパンを取り返そうと背伸びをしてくるので、腕を高い位置まで持ち上げる。 「返せっ!! 今いいとこなんにっ!!」 なにがや!? とつっこみたかったが、それでは話が進まないので、我慢する。 「その前に、仕事や」 「えー」 「えーやない。そしたら返しちゃる」 そう言うと、少女…ティアは、ぶすっとふくれながらも、 「わかった」 言って、ぱたぱた歩き出す。 「んー…」 しばらくの間、きょろきょろと見回していたが… 「…ここや」 なにもない場所。 宙に、彼女は手を掲げる。 そして。 「――……」 聞き取れない言葉をつぶやいた。 …やがて…
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