幕間で考える役者たち

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     だが、灯りが消えていたのは1分間ほどだったらしい。すぐに電気が点いて、蝋燭に演出されていた地下室の幻想は部屋の四隅へと消え去る。  と、――見れば鳥籠の中に納呀の姿がない。彼によって差し込まれた鍵が、そのまま鍵穴に残っていた。  ――さて優勝者の行方は如何に?  皆の視線が素早く地下室を駆け回ったとき、地上へと通じる階段の中途に立つマント姿の人影が見出だされた。  夜を切り抜いて仕立てたような漆黒の、そして目の覚めるような鮮やかな緋色の裏地がはためいている。さらに目深にかぶった鍔広帽子、ああ、そのSilhouetteは――    あれは! と有依は気がついた。警備員が慌てて駆け寄った。誰かが叫んだ。足音が乱れた。 「Good-Night!」  月泥棒はマントを翻して階段を駆け上がっていく。まるで月の重力で歩くように軽快に、その腕に優勝者の納呀を抱き抱えながら―― ☆……《地上ホール.  円形の部屋は三階までが吹き抜けで、内壁を巨大な階段が螺旋状に走っている。その階段に螺旋を描いて座る仮面音楽家たちが今、waltzを演奏していた。 《大舞踏会ルゼリア》  月泥棒は納呀を抱き抱えながら螺旋の階段を、風のように駆け上がってゆく。  驚いた仮面音楽家たちは順々に、歪んだ音色を階下に散らした。ホールの円舞が乱れた。人々の視線が螺旋型になった。月泥棒は笑いながら階段を駆け上がる。  ――目眩! 納呀は月泥棒に抱き抱えられて、天井の巨大Chandelierから降り注ぐ眩しい光の欠片の、その輝きに思わず眼を細めた。 「――ああ!」  音と光、ざわめきが、はてしなく自分から遠のいていく気がした。納呀は未だ今夜の自分を他人のように感じている。  納呀の心が跳ねた。 「ああ、もう何もかも、夢のようだ!!!」  
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