67人が本棚に入れています
本棚に追加
/210ページ
階段を走り抜け、最上階の窓を蹴破って月泥棒は夜空に躍り出た。夜の冷たさが彼らを包んだ。不思議と地上三階の高さは怖くない。納呀は眼を見開いた。眼下にきらめく市街は陳腐でcheapな模型玩具だった。
月泥棒はワイヤーに吊られたような動きで夜を駆ける。納呀は全身に夜の涼しい風を浴びた。
そのとき納呀の頬を涙が伝ったけれど、それは怖さや悲しさで流れたものではなかった。しかしそれが何なのか、納呀にはわからない。
月泥棒は、この街で最も高層の時計塔に静かに降り立ち、抱いていた納呀を腕から下ろした。
最初のコメントを投稿しよう!