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★……
その後、舞踏会関係者によって納呀は保護されて、無事にTrophy授与も終わった。賞品として、主催者Lilyに会い、所蔵品の中から目についた稀覯本数冊を受け取ると、挨拶もそこそこに早々と帰り支度を始めた。
帰りの馬車に乗る間際まで、興奮気味の有依が納呀に詰め寄ったが、彼は上の空だった。早く帰りたいとか、眠いとかしか言わない。
「夜空を飛んだ気分はいかがですか? 羨ましい限りです。私もあんな風に飛んでみたいです。夢心地ですね。まさに奇術ですね。素晴らしいですね。ね、どうですか?」
「うるさいうるさい。話は今度にしてくれ」
「約束ですよ!」
無理に握手を求めたあと、有依は別の馬車で帰っていった。
【帰り道】
月兎の馬車は、夜猫も一緒に乗り込んだので、普段よりすこし狭い。月兎の膝に乗るような体勢で夜猫は馬車に揺られていた。
「それにしても……」と夜猫は首を傾げた。
「結局、月泥棒は納呀様を攫っただけで、何も盗んでいかなかったみたいだね、ウサギ君」
「いやいや」
月兎は、持参していた望遠鏡を弄り回しながらこんなことを言う。
「奴はとんでもないものを盗んで行きました」
不自然なほど真剣な表情で言いかけた月兎の言葉は、納呀が振り上げた優勝Trophyによって阻止された。
「納呀様の……心で」
「月兎!」
「痛」
「月兎!」
「痛い痛い痛い。具体的には唇……」
「月兎! 見てたのか貴様この野郎」
「近頃の望遠鏡は高性能なのです。痛々」
「ちょっとちょっと、ご主人さま!」
狭い中でSylvesterが納呀に縋りついたために馬車はぐらぐら揺れた。
「まさかまさか、まさか月泥棒に何かおかしなことされたんですかご主人さま!」
「何かおかしなことって何だ馬鹿! 何もあるか馬鹿馬鹿」
「納呀様、大丈夫です。夜猫の情報によると同性同士ならNo Countだと」
「でも月泥棒はmaleなのかウサギ君?」
「さあ?」
「月兎貴様」
「ななな何が! 一体何がNo Countだって言うのかな月兎君!」
「黙れ馬鹿」
「まさか。まさか貞操を盗まれたとでも言うのですかご主人さまってば」
「そこまでいくわけないだろうが!」
「じゃあどこまで!」
「だから何も」
「うわあああご主人さまが穢されちゃったああ」
「……もう疲れた」
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