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【新月新聞社にて】
夜。
新聞記者葉山千夏が全速力で編集室に飛び込み信じられないくらい盛大にすっ転んで頭を打ちつけのたうちまわる。
「ぐあああ痛い!」
「間抜けだなあ」
「おっと!」
葉山千夏はバネ仕掛のように跳び起きて室内を見回した。
「Scoop!」
しかし部屋はほとんど無人だった。呆れ顔でこちらを見ている御園守が隅の机に座っているだけで、灯りもその周囲にしか点いていない。
「御園記者! みんなはどこに行ったのですか」
「君は何をそんなに慌てているのだ」
「月泥棒です! 舞踏会に現れたんですよ! それもこの街で一、二を争う財産家Lilyの主催! 入れてもらえないから外をうろうろしてたんだけど写真はばっちり撮れましたよ! 朝刊まだ間に合いますよね! 大丈夫ですよね! 一面!」
「間抜けだなあ」
「なんだとう!」
「うるさいよ。月泥棒の記事で第一面を飾ったことがあるからって調子に乗って」
「でもScoop!」
「奴がどうしたって」
「関係者の話によると、少年を抱き抱えて舞踏室の最上階まで駆け上がり窓を蹴破って夜空に飛び出した。――その写真を撮ったんです」
「ふーん。たいしたことじゃないな。別に朝刊に間に合わせなくたっていいだろう。それに第一面でなくてもいい」
「ええー!」
「うるさい」
御園は仰々しく耳を両手で塞いだ。
「すごくうるさい」
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