白黒の日々

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 屋敷には或る特殊な人々がいた。 【西棟】それは、地上に扉を持たない。本館の三階から伸びる歩廊と繋がっていて、そこしか出入り口は存在しないのだ。  そこに棲むのは『月の病い』に侵された当家一族の人々である。  つまりは近親婚を重ねたことに起因するが、まだ子供だったSylvesterには理解できなかった。  或る夏、【西棟】から死者が出たため、数人の侍従たちとともにその部屋を掃除する機会があった。入室すると、そこはひどく不衛生な場所で、目眩や嘔吐感に悩まされた。  掃除中、大人たちがその死体を運ぶのを、彼女はうっかり見てしまったが、そのとき初めて『月の病い』が畸形の人々を指す言葉であることを知ったのだった。Sylvesterは言葉を失った。  
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