白黒の日々

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         Knock. Knock.  返事は無い。解錠。暗くて目が利かなかった。一歩、踏み入れて。  寝台の上に足を崩して座っていた。薄暗い部屋の中、洋燈の灯りをゆらゆらと映している双眸は右眼が紅、左眼が翠。きらきらと光を反射しながらも奥底は知れずどこまでも暗く、薄灯に揺れている、納呀。  罅割れてしまいそうな肌はその白さが病的なほどでそれは死人に近い。這い回る黒髪の色が際立ってますます穢れて見えるのだった。  真昼だというのに窓を下ろし、灯りは点けているが、なかなかSylvesterは暗がりに目が慣れず、当惑している。 「あの……お届けものでございますわ」  歩み寄ると、香りが鼻に衝いた。高い香りだった。髪か肌か、何か香料でもつけているのかもしれない。しばらくして、応じて納呀が腕を伸ばしたので、届くように歩み寄る。  まるで幼児が抱っこでもせがむように伸ばした彼の腕から、巻きついていた黒髪が、さらさらと流れ落ちていった。ああおそろしい。と思った。蛇のような蔦のような黒髪もそうだし、燃えるような紅と、凍えるような翠がぎらぎらと、光っているようで。    
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