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花王石鹸の商標のような三日月が夜空で微笑んでいる時刻、とある古城の一室にて、城主である納呀は一冊の古書を読んでいた。
物語のfinale.……主人公が、口にするのもおぞましいような甘い台詞を吐き、常人ならば鳥肌を立てて床をのたうち回らずにはいられない文句を次々と並べたて、ヒロインの手を握って幕となるページを小難しい顔をして読んでいた納呀は、本を閉じて手元のBellを鳴らした。
「はいご主人様」
地下室で拷問器具を磨いていたSylvesterが、慌てて納呀の部屋に入室する。
「何か御用ですか?」
「シルヴェスター。余は何歳だったかな」
「先月の誕生日で16歳になられましたわ」
「そうなのだ。そこで……」
納呀はしばらく視線を泳がせてから、小さな声で言った。
「余は花嫁が欲しい」
「え?」
Sylvesterは頭上に大きな電飾疑問符(100w)を点滅させて小首を傾げた。
「イリアス様、ご結婚なさるのですか」
「と、言うより恋がしたい」
「恋ですか」
「なにしろ16歳だし、余は何となくそんな気分なのだ。で、どうしたらいいのかな」
「さあ……私は恋も結婚もしたことがないので」
「さて」
しばらく考え込んでいたが、納呀は「ではひとまず花嫁を連れてこい」と言った。
「いますぐに!」
「どこからですか?」
「どこでもいい。とにかく早く」
急かされて、Sylvesterは古城を出ていった。
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