隣の笑顔

6/15
前へ
/204ページ
次へ
  1本。 俺はその日、的前では1本だけしか引かなかった。 いや。怖くて引けなかった。 代わりに巻藁に向かって延々と弓を引いていた。 巻藁室には鏡が置いてあり、自分の射を横目に見ることが出来る。 褒める箇所もないが、言うほど悪い射でもない。 でも何故か矢は暴走し、彼方へと飛んでいってしまった。 それがたまたまなのか、或(あるい)は何かしらの癖が要因となっているのか...。 弓道講師のおじさんは女子に付きっ切り指導。 男子は相手にされていないみたいだ。 話し掛けるタイミングもなく、俺はただ巻藁の前で原因を探っていた。 というよりも、巻藁に逃げていた。 講師のおじさんに指導して貰う際にはきっと的前で引かされる。 だから巻藁は俺の避難場所になっていた。  
/204ページ

最初のコメントを投稿しよう!

212人が本棚に入れています
本棚に追加