男心と秋の空

4/18
5631人が本棚に入れています
本棚に追加
/307ページ
「あ……」 思わず、そんな声を漏らしたと思う。 彼と目が合った瞬間、彼の綺麗で整った顔についているものが、沈みかけた夕陽に照らされて目に留まったのだ。 そのまま通り過ぎてしまえばいい。 そうすれば、今までと同じ、ただ同じクラスにいるだけの顔見知り。 彼に近づくなど、あの学校に通っているものなら、誰もが無謀だと危険だと告げるだろう。 彼の隣に来るまでは、その例外でもなく、そのまま通り過ぎるつもりで、右手を強く握っていた。 だが、最上段に右足をかけた時、フワリと届いたその臭いに足を止めた。 気がつくと、そんな私を冷めた目で見ていた彼に、今し方使っていたバーバリーのハンドタオルを、差し出していた。
/307ページ

最初のコメントを投稿しよう!