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「じゃあ」
目を合わせる勇気がなく、その綺麗な手に、別れの言葉を告げた。
大役を果たし、彼の隣をすり抜けて、家路を急ぐ……はずだった。
「高梨…時間大丈夫か?」
虫の音が、一際大きく鳴った時、ハスキーボイスも一緒に、耳を掠めた。
「え?…うん」
彼が、私のようなクラスで派手でも地味でもない中途半端な女の苗字を知っていることに、驚愕し、頷いてしまった。
「なら、乗れよ」
私が渡したタオルで乱暴に顔の血を拭い、制服のポケットにそれを突っ込むと、彼は、腰をあげた。
バイクにゆっくりと跨がり、私に、無言で、彼に似合う漆黒のヘルメットを差し出す。
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