水無月 問題編

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 心臓の鼓動、血液の循環、呼吸の波、骨の生成、細胞の死滅、さまざまなリズムだけが、彼の世界のすべてだった。 それは美しい心であり、あらゆる言語も、情景も、音楽も、匂いも、味も、感触も、なにもなかった。 そこにあるのは、純粋な自分自身の生命だけであった。  彼は生きていた。 「××くんは、まだ帰らないの?」  ふと、思案に耽っていた僕は、声をかけられた。 振り返る。  クラスメイト、女の子、呼び名は委員長、茶髪のロングヘアー、ミニスカート、赤いフレームの眼鏡、知的な顔立ち。  放課後の教室には、僕たち二人だけだった。
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