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「悲しかったんだよ、僕は」
××は私にそう言った。
いつの間にか曇っていた空は晴れて、朧月が××を照らしていた。
廃墟ビルの壁にもたれ掛かっている××は、綺麗だった。
「一年間、よく頑張ったよね」
私は彼にそう声をかける。
彼は、頷いたりはしない。
「別に、頑張ってなんか無い。
ただ、本当のところでは、悲しかったんだと思う。
僕自身でも気付けなかったけど、悲しかったんだと思うよ」
「でも、それももうおしまいでしょ?」
「そうだね。
それも、――悲しい」
彼のお腹にはナイフが刺さっている。
そこから血液が流れ出ていて、だんだんと××の息が弱くなっていくのが、遠くからでもわかった。
「悲しいの?」
「ああ、悲しいんだ」
××は言う。
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