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私の記憶の中の兄は、いつも微笑んでいた。
とても背が高くて、肩幅が広く手足が長かった。
遠くから一目で解るほど、周囲の人間より頭ひとつ高かった。
男らしい体格の割りに、色白で優しげな顔立ちをしていた。
黒目がちで、どうかすると女の子みたいに可愛く見える事があった。
特に笑った時。
笑うと目がとても細くなって、頬が柔らかなラインを描く。
その柔らかな頬が好きだった。
私は度々ふざけて兄の頬を指先で突っついた。
「やめろよ」
そんな時、兄はいつも口を尖らせて私を睨むふりをしたが目は何時も、とても優しかった。
指先に触れた兄の頬の柔らかな感触を、今でも覚えている。
なのに、今、一番先に思い出すのは、あの死体安置室でみた兄の顔なのだ。
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