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九月の未だ熱い午後、知らせを受けた母と私はタクシーで警察に駆け付けた。
道すがら、母は狂った様に、ぶつぶつと何かを呟いていた。
兄が死んだという知らせを、どうしても受け入れる事ができなかったのだろう。私だって、認めたくなかった。
(もしかしたら何かの間違いかもしれない)
そんな淡い期待を捨てきる事が出来なかった。
ふらつく母親を支えながら、死体安置室に入った。
「お辛いでしょうが、身元の確認をお願いします」
若い刑事が私達を案内してくれた。
兄と同じくらいの年だろうか。
「外見の損傷が激しいので、判別出来ないかもしれません」
刑事は申し訳なさそうに俯いて、ゆっくり遺体に掛けられた布を捲った。
(判別できないほど損傷が激しい?
酷い傷でも負っているのだろうか?
私は恐る恐る遺体を見た。
絶句した。
(これが……これが、兄……?)
無残にやせ細って干からびた貌には
以前の柔らかな面影は微塵もなかった。
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